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“冗談”から生まれた世界初の体操AI採点システム 開発を経て見出した「肝」のデジタル化の重要性とは

新たに開発を進める「能楽×AI」 富士通が見据える“伝統芸能の高度化”の実態を訊く

 富士通がAIを使い、日本の伝統芸能である能楽の“高度化”に挑んでいる。すでに体操では国際大会でも使われる世界初の採点システムを開発するなど、AIによる人の動きの解析に結果を出している同社だが、いったいどのような狙いが背景にあるのか。プロジェクトの責任者である、同社 Human Digital Twin事業部の藤原英則氏に話を聞いた。

“冗談”から誕生した、世界初のAI採点システム

 「AIは、わたしたちのバディとなる」。25年目を迎えた大型展示会「CEATEC 2024」で、富士通が発したメッセージだ。同社は、30年以上にわたってAIの研究を続けており、自動機械学習やテキスト分析などの7領域で体系化したサービス「Fujitsu Kozuchi」を提供している。2024年のCEATECでは、人の動きをデジタル化するデータ解析プラットフォーム「Fujitsu Human Motion Analytics」を活用した、「Vision AI Park」と題するブースを出展した。

 ブースでは「Sports(スポーツ)」「Healthcare(ヘルスケア)」「Culture(カルチャー)」と3つの切り口で体験型のコンテンツを展示。なかでも編集部が目を引かれたものは、日本の伝統芸能である能楽を扱ったコンテンツだ。背丈ほどある大型ディスプレイの前に立つと、自分の動きと能楽師の動きを比較しながら指導を受けられる。この裏側では能楽師の所作や舞をデータ化し、AIに学習させているという。

 トラディショナルな能楽と、世の中を席巻する最新テクノロジーのAI。一見ミスマッチな両者を結び付けたのが、富士通の藤原英則氏だ。

富士通株式会社 Human Digital Twin事業部 事業部長 藤原英則氏

 藤原氏は、金融系企業を経て富士通に入社後、2015年に発足した東京オリンピック・パラリンピック推進本部の企画推進統括部長として、スポーツにおける新規ビジネスの創出などをミッションに取り組んできた人物。「能楽×AI」という構想にたどり着く以前から、「体操」とAIを組み合わせる研究開発に取り組んでいた。

 「富士通では、社会課題の解決や持続可能な社会の実現に向けて、5つのテクノロジーに注力しています。その1つがAIです。このアセットを生かすことで、スポーツ界の課題を解決し、社会にテクノロジーが根付くきっかけを作れないかと考えました」(藤原氏)

 とはいえ、スポーツは体操以外にも数多くの競技がある。なぜ、体操だったのか。きっかけは、1つの“冗談”だったという。

 「1964年の東京オリンピックを契機に首都高速道路や東海道新幹線が開業したように、“東京2020”でも『スポーツ祭典のレガシー』を残したかった」と藤原氏。日本は様々な社会課題が山積する“課題先進国”でもあり、その課題をテクノロジーで解決できないかと模索していた。

 「あるとき、国際体操連盟の方と『ロボットが採点する時代が来るかも』と話をする機会がありました。たしかに、判定における目視の限界を考えると、面白そうだなと思い企画したところ、後日その方に『あのときの話は冗談だよ』と言われまして(笑)。それでも、スポーツ界の誤審を防ぎ、ファンエンゲージメントを向上するためにも、企画したからには形にしようと考えました。

 また、体操は人間がなせる高速で複雑な動きを包含したスポーツです。“人の動きのデジタル化”に挑戦したいと考えていたため、数あるスポーツの中でも体操競技に注目しました。そこで、採点競技では世界初となる体操AI採点システム『Judging Support System(JSS)』を開発したんです」(藤原氏)

「あん馬」で直面した、AI採点システム開発の壁

 しかし、これまで審判員が目視で行ってきた採点をAIに置き換えることは、そう簡単ではない。「最初は、『あん馬』から着手しました。限られたスペースで演技を行うので、他の種目よりも比較的簡単だろうと考えたのです。しかし、実際に始めてみるとAIにとっていちばん難しい種目だと判明しました」と藤原氏は振り返る。

 一般的にAIが何かを認識する際には、認識する対象とそのラベル(名前など)を学習させる。一方、体操では対象となる選手が常に動いており、ひとつひとつの技を認識するには「技の切れ目」も認識させる必要がある。特にあん馬は動きに連続性があり、技の切れ目を認識することが難しいという特徴があったのだ。そこで、フォトリアル技術を活用した学習データの生成や、グラフ最適化による補正アルゴリズムなどにより、これらの課題を解決していったのだという。

 JSSでは、AIがカメラ画像から選手の骨格を推定し、姿勢や各部位の角度などを測定。あらかじめ学習させた採点規則に則って技を認定し、採点を行う。採点規則には「腰角度を135度にキープにする」といった、角度や高さなどの緻密な要件があるが、そうした部分も一瞬で判断できるように試行錯誤したという。

 「体操競技の採点は、ストップウォッチで時間を測る陸上競技などと違い、各審査員の主観・感覚によるところが大きく、誤審も生まれやすいです。採点規則で定められている角度なども、人の目で正確かつ即座に測れるわけではありません。こうした目視の限界を克服するため、JSSの開発ではこれまでに200以上の特許出願をしています。これは、社内の単一プロジェクトの中で最も多い出願数です」(藤原氏)

次のページ
体操の次は伝統芸能を“高度化” いったいなぜ?

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この記事の著者

鬼頭 勇大(キトウ ユウダイ)

フリーライター・編集者。熱狂的カープファン。ビジネス系書籍編集、健保組合事務職、ビジネス系ウェブメディア副編集長を経て独立。飲食系から働き方、エンタープライズITまでビジネス全般にわたる幅広い領域の取材経験がある。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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