ITリテラシーには地域格差も? 全国20拠点へ出張したワケ
ITツール相談会とAI対面相談会の大きな特徴は、オンラインのみならず、全国の拠点に安藤氏と清野氏率いるメンバーが自ら足を運び、対面方式で開催している点だ。これは対面方式のほうが直接話しやすく情報が浸透しやすいという仮説に基づいた取り組みだと安藤氏は話す。
「対面であれば直接話しやすいと考え、また『ITに疎く言葉だけで説明されてもわからない方にも、隣に座って画面を指さしながら説明することで、より理解が深まる』という仮説を立て、全国各地に出張して相談会を実施しています」(安藤氏)
対面方式を取り入れたもう一つの理由には、ITリテラシーの地域格差の解消もある。ITツールの利用状況を見ると、首都圏から離れた拠点ほど利用率が低いことがわかったという。これについて、地方拠点の顧客がWeb会議よりも対面での商談を好む傾向があることや、社内業務においても紙を使用する運用が残っていることから、オンライン化が比較的遅れていると安藤氏は分析する。「社内においても地域によってITツールの活用度に差があるものの、地方拠点でも効果を発揮するITツールの使い方がきっとあるはず。その可能性を探り、ITリテラシーの地域格差を解消するためにも地方での対面相談会が必要だと考えました」と話す。
2つの相談会の参加者にはITに明るくない社員が多いため、コミュニケーションの取り方には特に気を配っていると両氏。専門的なIT用語は別の表現に置き換え、例えも用いて誰でもわかる平易な言葉で説明するよう意識していると話す。
また、相談会に来た社員には、ITツールやAIを導入するために上司を説得する材料として何が必要かについてもヒアリングしている。相談会で本人が熱心に話を聞いてくれたとしても、その上司の理解を得られなければ、その後の導入につながらないケースも多い。こうした導入の阻害要因についてもきちんと調査し、それをクリアするための準備や手助けを安藤氏らが行う。ときには、EX推進課やAI推進課のメンバーが相談者の上司の説得に当たることもあるという。

清野氏は、多忙な中でも生産性向上のために積極的に学ぼうとする社員への敬意が大きなモチベーションになっていると話す。
「どの拠点の社員も本当に忙しい中、新たな知識を吸収するために時間を割いて相談会に来てくれています。毎回『相談に来てもらえた』と感謝の気持ちで臨んでいます」(清野氏)
ITツールを実際に動かしながら説明することも、心掛けていることの一つだ。ツールの利便性を言葉による説明だけで理解してもらうのは難しいため、その場で実演し、簡単に使えることを目で見て感じてもらう。たとえば、生成AIに関しては社内にプロンプト集サイトを立ち上げ、営業や制作などの職種別に業務ですぐに使えるプロンプトを公開している。
300件超の相談に対応、ボトムアップで輪を広げる
2023年10月よりEX推進課が開始し、12月よりAI推進課も併催する形となった相談会は、これまで全国20拠点の営業、制作、バックオフィスなど30部門を対象に開催された。開催規模の大小にかかわらず各拠点に足を運び、2025年1月末までに300件を超える相談に対応している。
寄せられる相談の内容は様々だが、ITツールに関しては資料共有系、タスク管理系、コミュニケーション系に大別される。このうち、多くを占める相談がコミュニケーション系だ。具体的には、各部門が使用するツールがバラバラで、対応に工数がかかり困っていると相談する社員が多いという。この問題は組織全体でツールの統一を図らなければ解決が難しいため、EX推進統括部から事業部門長に対し、チームコミュニケーションに最適なITツールや業務環境を紹介する機会を作っていると安藤氏。「本来はトップダウンで統一すべき部分が多くありますが、なかなか実現が難しいものもあるため、まずはボトムアップで会社全体を巻き込みながら標準ツールへの統一を図っています」と話す。
また、地方拠点固有のニーズに対応したケースもある。同社では支社の社員に対し、営業車を運転する前にアルコールチェッカーによる飲酒チェックを義務づけている。鹿児島支社では、営業社員がアルコールチェックした画像をTeamsに投稿した後、支社管理課が本社管理部に提出するルールとなっているが、社員にとってはその手順が手間で、記載ミスや入力漏れも多いことに悩みを抱えていた。そこでEX推進課は、営業社員がMicrosoft Formsに画像を添付するだけでTeamsに自動で投稿され、さらにSharePointにも格納される仕組みを開発。これにより業務が簡素化し、ミスも減らすことができたという。今後もそれぞれの拠点に対応したサポートを行っていく予定だ。
AI対面相談会でも、現場の様々な悩みに対応してきた。圧倒的に多いのは「AIを何に使ったらよいかわからない」という相談だ。これに対しては議事録やメールの作成、制作部門や営業部門における原稿生成など社内の主なユースケースを紹介しながら、ともにAIによる業務効率化への道を模索している。
また「そもそも何が問題か分からない」といった相談に関しては、実際に行っている業務を細かくヒアリングし、生成AIを使って効率化できるかをその場で考える。できそうなものは実演や過去事例を交えながら説明し、難しいものは代替案の提案や適切な部署へ繋ぐなどの対応を行っている。
「生成AIに関しては、その場で使い方を見せながら説明します。複雑なタスクのAI処理はデータを使った検証が必要なため、一度持ち帰ってデータを共有してもらい、私たちで試しながら実現可能性を探るといったアプローチを取っています」(清野氏)

各部門から様々な相談を受けることで、多くの現場が抱える課題と解決法に関するナレッジの蓄積も進んでいると両氏。以前に成功した解決策を、同じ課題を抱える他の部門に横展開するケースも増えている。