米国でMDMが注目される背景
企業が所有するデータは、その多くが様々なサブシステムに分散しているため、業務品質上の課題が発生している。そこで注目されているのが、重要な情報をマスターデータとして統合し、管理するMDM(Master Data Management)だ(図1)。
現在、MDMの対象となるマスターデータは、大きく顧客系と商品系に分類でき、IBMはどちらにも注力している。ただ、顧客マスターと商品マスターの管理に求められる要件などはかなり異なるため、今回は顧客マスター統合を中心に解説していく。
顧客マスターの統合は、最近になってMDMという用語が一般化してきているが、欧米では長らくCDI(Customer DataIntegration)と呼ばれていた。日本ではCDIはあまり知られていないが、MDMは漠然としたイメージがあるので、CDI の方が本質を理解しやすいのではないかと考えている。求められているのは、多数のサブシステムにある顧客データの統合ができるような仕掛けだからだ。
この分野で、当初対象となったのは特に金融機関の顧客情報だったが、海外では公共、通信、流通などの業種にまで広がってきている。そしてマスター管理の対象が、金融機関においても顧客だけでなく商品などに広がり、包括的な管理に対する要望が高まったこともあり、MDMという用語が定着してきた。
顧客マスターの統合は古くから存在する課題であり、特に金融機関では様々な対応策が実施されてきた歴史ある分野だともいえる。ただ2000年頃から、米国の金融機関を中心に、以前よりも顧客管理の複雑化が進み、より強固なインフラが必要となってきた。
その理由は複数あるが、まず米国では1990年代から金融機関の買収戦略が加速し、顧客情報統合へのニーズが高まったことが挙げられる。また取り扱う金融商品の種類とそれを管理するシステムも増加し、そのスピードに追いつくことが求められた。さらにインターネットの急速な普及により、Web専業の新しいプレイヤーも登場して競争が激しくなり、新しい顧客にどう対応するかが大きな課題になってきた。加えて、顧客がグループ企業間での個人情報共有を望まない場合は、その意向を明確に管理するなど、監督官庁からの法規制の遵守、コンプライアンス対応も求められている。このような様々な背景があり、新しい強固なインフラとしての顧客情報管理基盤が必要になってきたのである。
米国の金融機関では当初、いわゆる手組みによる統合を試みたものの、うまくいかないケースが多発した。そこで2003年頃から、多くの統合管理プロジェクトがソフトウェアをベースにした開発に移行した。