デバイスなどでは解決しない、ベンチャーが取り組むべき教育の課題設定とは?
「EdTech」とは、教育とテクノロジーを融合させてイノベーションを起こしていこうという動きを指す。主催者でモデレーターを務めたデジタルハリウッド大学大学院の専任教授・佐藤昌宏氏は、冒頭で「日本にも多くのEdTechプレーヤーがいる。海外に負けないように、日本も教育にイノベーションを起こしていこうではないか」とイベント参加者に熱く呼びかけた。
佐藤氏が今回、海外事情を考慮した背景には、去る3月に日・米両国で教育系テクノロジーのカンファレンスに参加したことがあるようだ。佐藤氏は、その報告と所感を次のように語った。
テキサス州オースティンで開催されたSXSWedu(サウスバイサウスウエストエデュ、世界最大級の規模の教育系ITカンファレンス)に参加、世界の各地域から勝ち上がってきたEdTechプレーヤー24社のプレゼンを聞いた。
傾向としては、1)子どもに数学やロジカル/クリティカルシンキングなどの理数系の思考力を身につけさせるサービス、2)学校の校務や学習履歴をデータ化し、それをAPIで統合するサービスの紹介が多かった。
その理由は、米国が国としてSTEM(Science,Technology,Engineering,Mathematics)という考え方を提唱し、これらの理数系の科目を強化して米国の課題である教育格差のボトムを上げようとしているためだ。その政策に応える形で、算数などを教えるベンチャーが多数、出始めているとのことだ。
また、各州によりばらつきの大きいカリキュラムを、ある程度標準化するためのCCSS(Common Core State Standards)という取り組みがある。標準化の過程で校務のデジタル化が進んできており、そうしたデータを活用するいろいろなベンチャー事業が立ち上がっている。
「アメリカの教育課題である格差問題を、ベンチャー/スタートアップの創造性を活用して解決しようという取り組みを、国をあげてやっているということを強く感じた」
佐藤氏はその後、翻って日本では「このような明確な課題設定がなされていないのではないか」と問題を提起した。文科省主催のあるイベントでは、電子黒板を利用した模擬授業やタブレットの導入事例などが発表されていたが、そもそも前提となるべき「なぜデジタルを使うのか」という課題設定ができていないと強く思ったという。
佐藤氏は最後に、「授業が効果的ではないから、デジタルツールを使って効果的にすることを課題にしているのかというとそうではないと思う。日本の場合、ハード至上主義というか、大企業中心で、大企業と国で問題を解決しようという、そんな動きに見えてしまった。たまたまこの2つのイベントを切り取っただけで私がそう感じたのかもしれないが、日本は、ベンチャーなり、スタートアップのクリエイティビティをもっともっと教育に取り入れていくべきなのではないか」として、挨拶を締めくくった。