逆境とも言える中、Oracleはどのように駒を進めるのか。1つは強みを持っている業界特化型のSaaSだろう。こちらは、すでに海外では実績もあるが、それがそのまま日本でも受け入れられるわけではないのが難しいところだ。続いて力を入れるのは、昨年から本格参入したDatabase as a Serviceだろう。こちらはある意味Oracleの本丸、オンプレミスのOracle Databaseとの棲み分け、使い分け、組み合わせを顧客がどう理解するかが成否の鍵となりそうだ。
医療領域の攻めどころ
日本オラクル 常務執行役員 クラウド・テクノロジー事業統括 公共営業統括本部長の白石昌樹氏は、地方創生、雇用創出といった面からクラウドの活用が求められていると言う。その理由はもちろん、日本が直面している少子高齢化の課題があるから。少子高齢化は地方からの人材流出にもつながる。これは、地域における高齢者の医療や介護サービスに従事する人材も不足することになる。そうなればさらに住みにくくなり、過疎化に拍車がかかる悪循環となる。
こういった問題に対し「クラウドを活用し医療現場の生産性の向上を目指します」と白石氏。人は増やせないが、少ない人材でも回せるようにすることで、ひいては人材流出も阻止したいところ。Oracleでは、医療の領域に電子カルテやオーダーリングなどの仕組みをオンプレミスのパッケージアプリケーションとしてこれまでも提供してきた。東日本大震災以降、医療機関における災害対策、ビジネス継続への要求が高まっており、そのためのITの仕組みを構築する動きが加速。この仕組みを1からオンプレミスで構築するのではなく、あるものを使うとの意識も出ている。
「医療機関で使えるパッケージ製品は増えています。それらでさまざまな要求に応えられるようになっていますが、そうは言っても医療機関の経済環境は厳しい。IT予算は一部の大規模病院などを除けば引き続きかなり厳しいものがあるでしょう」(白石氏)
災害対策を含む新たなITシステムの実現を、少ない予算で賄う。そのために日本オラクルでは、積極的にクラウドの提案をする。医療関係従事者か抱える予算的な問題、さらにはIT専門の担当者不足などにも、クラウドなら容易に答えを提供できる。
クラウドなら安価に始められる
Oracleでは、具体的に3つのサービスをまずは医療業界向けに提供する。1つがOracle Database Cloud Service。これはオンプレミスのデータベースをクラウドで活用できるようにするものだ。
「従来、Oracle Databaseは価格が高いというネガティブな要素がありました。これは、それを払拭するものになります。1コア構成なら月額4万8,000円からと手が届きやすい。もう1つがBI Cloud Serviceです。こちらも1ユーザーで月額3万円からです。3つ目がOracle Document Cloud Serviceで、これを使えば病院内のサーバーやPCで管理されているドキュメントをセキュアに共有化できます。こちらも10ユーザーで月額1万8,000円です」(白石氏)
これらのクラウドのサービスは、これまでにOracleのソリューションに比べかなりリーズナブルなもの。そしてクラウドなので、単一病院だけでなくエリアをカバーするような地域包括ケアもサポートできると白石氏は言う。ITの仕組みを使って医療機関同士をつなぐ、主治医と専門医の間をつなぐことが可能となり、たとえば映像情報を共有し専門医による遠隔医療も実現すると。さらにはウェアラブルデバイスのセンサーデータを使った予防医療などもOracleでは提供しており、今後は病気のリスクを軽減するようなことにも対応できると自信を見せる。
「Oracleとしては、オンプレミスとクラウドのテクノロジーを同じアーキテクチャでやります。そうすることで顧客の要件に応じ、それぞれをうまく使い分け、組み合わせて使えます。オンプレミスとクラウドを自由に行き来できるこの可逆性は、他社が追随できないところだと考えています」(白石氏)。
今回発表した3つの医療業界向けのクラウドサービスについては、すでにいくつかの医療機関で採用されている。医療法人の愛仁会ではOracle Document Cloudを、また公益財団法人 ときわ会 常磐病院ではOracle Database 12cとOracle Database Applianceをプライベートクラウドの基盤として構築した。その上で同病院もOracle Document Cloudを採用し情報共有を行おうとしている。