いま、IBM Watsonはここまで可能に
「IBM Watsonはいま実用段階に来ています」。基調講演に登壇した日本IBM 代表取締役社長執行役員 ポール 与那嶺氏は高らかに宣言した。イベントが「Watson」を冠していることもあり、随所でIBM Watsonの現在が語られた。
あえて言うまでもないが、IBM WatsonはIBMが開発し、提供している技術の一つ。膨大なデータをモデル化するなど学習することと、自然言語で応答できるのが特徴だ。質問に対して何らかの答えを導き出す。IBMはこうした技術を「コグニティブ(認知的な)」と表現し、ビジネスにつなげようとしている。余談だがIBMの初代社長はトーマス・J・ワトソン。
IBM Watsonがその名をとどろかせたのは2011年2月、クイズ番組「Jeopardy!」での優勝から。以来データ分析や学習、自然言語の解釈を中心に技術開発が急速に進展している。近年のIBM Watsonというと、何らかの専門分野において質問すると最適な回答を導き出す、自動応答システム的なものというイメージがある。最近では周辺技術の開発や買収が加わり、実現できることが増えてきた。
人物の表現や声のトーンから感情を分析する技術は、例えばコールセンターで活用できる。電話先にいる顧客がいらついていると把握できれば、より慎重な対応が求められる。質問への自動応答に感情分析が加われば、より適切な接客対応へと近づける可能性が広がる。
ほかにも「コグニティブ・ドレス」という変わったドレスが紹介された。これはドレスに縫い付けられた150個もの花をかたどった装飾が、ソーシャルの感情を反映して発色するというもの。ソーシャルを占める気分を把握するために大量かつ不確実なデータを分析し、結果を色という分かりやすい形で表現している。
人物の嗜好を把握する例も示された。ポール氏のTwitterへの投稿データから、性格や行動時間帯を分析。これを何に役立てるかというと、例えば旅行の計画がある。旅行会社が顧客の趣味や嗜好に合う旅行プランを提案するのに役立てることができると期待されている。IBM Watson関連技術はいまビジネスの実用段階にあるとIBMは強調した。
特別講演としてソフトバンク 代表取締役社長 兼 CEO 宮内謙氏が登壇。ソフトバンクは日本IBMとIBM Watsonを活用した日本語版サービスの提供へと努めてきた。2016年2月から提供開始しているサービス(API)には自然言語分類、対話、検索およびランク付け、文書変換、音声認識、音声合成の6つがある。
最初に話が持ち出された2年前、宮内氏は「これはすごいことになる」とビジネスや社会へのインパクトを直感したそうだ。現在ソフトバンクではIBM Watson技術を用いた「SoftBank BRAIN」を全社で構築中。その一つがコンタクトセンターへの導入で、現時点では質疑応答の履歴を読み込ませて精度を高めているところ。夏から本格稼働を計画している。ほかにもショップの接客サポートや法人営業の提案アドバイスでの活用もあり、生産性の向上や顧客満足度向上を目指している。
宮内氏は「今すでに国内で150を超えるソフトバンクの法人様がIBM Watson導入をご検討されています。IBM Watsonを使ったリアルビジネスが、いま始まろうとしています」と話した。例えば三菱東京UFJ銀行では、LINEを通じて顧客からの質問に回答するサービスにIBM Watson技術を活用して、サービス強化を目指しているという。
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コグニティブ技術を活用している企業がパネルディスカッション
パネルディスカッションではIBM Watsonや機械学習をすでに活用している顧客らが活用方法や効果などを開示した。
まずは富士重工業の車両に搭載されている運転支援システム「アイサイト」。富士重工業と日本IBMは2016年4月、高度運転支援システムで協業を開始したと発表した。アイサイトの実験映像データ解析システムを構築、IBMクラウドや人工知能技術の活用に着手した。実験映像データの管理システムは2016年4月から運用を開始している。今後はIBMクラウドを基盤とした「IBM Watson IoT for Automotive」を活用したシステム構築を検討する。
富士重工業によると、1万台あたりの事故発生件数で見ると、アイサイト搭載車の事故件数は非搭載車と比べて61%少ない。富士重工業の武藤氏は「お客様の命を守るため、(実験映像)データをためて自動運転の精度を高めていきます。自動運転に安心と楽しさを」と話していた。
かんぽ生命保険では保険の支払業務にIBM Watsonを導入。保険契約者からの申請審査は約款のほか医療知識や法知識も必要となり、複雑な申請となるとベテランでも1人あたり1日5件処理するのが限界だという。この審査処理のスピードアップのためにIBM Watsonを導入する。
現時点では過去の申請履歴をIBM Watsonに読み込ませている。数百万件分にもなる全データを読み込めば、人間1人なら数千年分に相当する経験や知識をIBM Watsonが持つことになる。現時点ですでに正答率が9割となるなどいい成果を出しており、かんぽ生命保険の廣中氏は「ベテランの経験値を引き出したい」と話している。
東京大学医科学研究所ではヒトゲノム解析研究にIBM Watsonを用いている。ゲノム解析技術の向上で、ゲノム情報だけではなく関連した論文も毎年倍増する勢いで増えており、1人の人間では読破できない量だという。そこで関連する論文をIBM Watsonに読み込ませている。がん治療の候補となる遺伝子を探したり、治療薬の提案の一助になると期待されている。宮野教授は「臨床チームがわくわくしています」と話していた。
日本IBM 池田氏は「社会を変えるような新しい技術ではデータが鍵となります。2016年4月現在、世界では2000人、日本では300人のコグニティブ・コンサルタントがお客様のビジネスをご支援します」と話した。
IBMのスタートアップ企業支援、2度目の卒業式
IBMではスタートアップ支援プログラムとなる「BlueHub」を2014年から開始している。採択された企業は半年かけてメンタリングを受けながら、コンセプト作り、プロトタイプ開発、ビジネスモデル検討などを行う。起業相談などを行うサムライインキュベートや、シェアオフィスを提供しているツクルバなどが支援する。イベント当日は今年の優勝者発表があった。同時に2期生の卒業式でもある。
第2期となる今回のテーマは「IoT」、採択された企業は5社。見事優勝したのはVR空間上でイベントを開催するプラットフォームを開発したクラスター社が受賞した。クラスターのFounder兼CEOの加藤直人氏は「てっきり優勝者は事前に通知されているものと思っていました。まさか優勝するとは」と驚きを隠せない様子だった。
次の第3期のテーマは「IBM Watson APIを活用したコグニティブビジネスの創造」。5月25日から募集が開始されており、説明会は6月16日に開催される。
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