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変わらないAPIの本質、大きく変わるAPI活用を支える技術の今――拡大を続けるAPIエコノミー

 「API」は古くて新しい用語だ。異なるシステム間をつなぐインターフェースになるという意味では同じだが、Webサービス登場時と比較すると周辺技術は大きく進展している。また当時とはビジネス的なインパクトが大きく異なる。ただし、API管理として見ると意外と本質や課題は大きく変わらない。では、なぜ今になってAPIが注目を集めているのか。本稿では、「APIエコノミー」が拡大している背景や企業事例を交えて、IBMが推進するAPI活用を支える技術とサービスの全貌を紹介する。

なぜ今、再びAPIが注目されているのか?

 近年「APIエコノミー」という新しい経済圏が生まれている。企業のサービスや情報をAPI(Application Programming Interface)として公開することで、新しいチャネルや新しい価値を生み出している。

 例えばコーヒーチェーンを運営する企業が発注に使えるAPIを公開すれば、アプリから注文する機会を広められる。あるコーヒーチェーンでは売上の21%をモバイルからの注文が占めるようになったという。ほかにも自動車会社がネットワークに接続した車両のデータをAPI経由で保険会社に提供してマネタイズしている例もある。

 特に最近ではFinTechと関連して、スタートアップだけではなく老舗の金融機関もAPIをオープンにする動きが見られ、新たな金融サービスの可能性が大きく広がっている。2016年3月には住信SBIネット銀行が日本の銀行で初めてAPIを提携先であるマネーフォワードに開放したことも大きな話題になった。

 こうした昨今の動きは自社だけで取り組むのではなく、オープンなハッカソンなどで自由な発想を取り込むことで革新のスピードを上げているのも特徴だ。APIは企業のビジネスを広く外部に提供するための接点や手段としてあらためて注目されている。  

 もちろん、これまでも企業のサービスやデータを、外部の異なるシステムと接続するものは多数存在している。しかし、近年登場しているものは“オープン”かつ“企業のコアビジネスと接続する”ため、より革新的でビジネス的なインパクトが大きい。  

 ただし企業のコアビジネスとなると接続先は、基幹システムであり安定性が重要で簡単に変更ができない。一方、昨今のデジタルをとりまく環境は変化のスピードが重要でめまぐるしく変化する。これら両極端なものをうまく取り持つにはAPIを介した疎結合な設計が求められる。

出所:日本アイ・ビー・エム[クリックすると図が拡大します]

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3つの段階におけるAPI活用の課題とは?

 外部からの呼び出しに応えるというAPIの役割は本質的には変わらないものの、ここにきてAPIは周辺技術の発展やトレンドの影響で新たな段階を迎えている。  

 企業内にはこれまでの蓄積として多数のAPIがあふれている。――これらを全て把握し、効率良く管理するにはどうすればいいか。実行時の安全性を確保するには。外部からのアクセス(流量)を制御するには。アジャイルに開発し、バージョンなどを管理するには。――APIはただ「つなぐ」だけではなく、企業全体で統合的に最適化して管理することが求められてきている。  

 APIの課題を別の切り口で考えてみよう。APIは「開発する」(創る)、「接続する」、「運用する」(最適化する)という3段階に分けることができる。開発段階であれば、迅速に開発できる環境。接続する段階であれば、外部システムや、ブラウザ、モバイル、IoTデバイスなどあらゆるクライアントから接続可能であること。運用する段階であれば、クライアントに応じたサービスレベルや課金などのワークロードを最適化し、利用状況をモニタリングできること。これからのAPI管理ではこうした課題をどれだけカバーできるかが重要になる。

IBMの取り組みから見る、API活用を支える技術とサービスの全貌

 こうしたAPI管理に関して、グローバルで強力に事業を推進しているのがIBMだ。IBMの戦略や最新の技術・サービスから、企業における現在のAPI管理の課題と解決策が見えてくるだろう。

 現在、APIエコノミーやハイブリッドクラウド環境の普及を背景に、IBMはあらためて「つなげる」ことに力を入れている。2016年2月に開催されたIBM InterConnect 2016でIBMはハイブリッドクラウドプロバイダーとして優位にあり、「ハイブリッドクラウドを極めるのはインターフェースを極めるということ」という発言もあった。具体的には「IBM Connect」シリーズがその役割を担う。インフラからアプリケーションの機能まで、あらゆるものをつなぐための製品群だ。(参考記事:「オンプレミスの巨人はどこへ向かうのか?IBM InterConnect 2016を振り返る」)

 Java EEで実装された既存資産のAPI化については、「IBM WebSphere Connect」がカバーしている。企業のコアビジネスを実現している既存アプリケーションやデータをAPIとして公開することで、クラウドからアクセスできるハイブリッドクラウド環境を容易に実現できる。  

 また、上述したIBM ConnectシリーズでAPIをカバーしているのが「IBM API Connect」になる。最新版が2016年3月22日から提供開始となった。APIの管理とセキュリティを担う「IBM API Management」に、API作成と実行環境を新たに追加して「IBM API Connect」と名を改めた。  

 IBM API ConnectはAPIの作成から、保護、実行、管理まで、ライフサイクルを包括的にカバーするAPI基盤ソリューションへと進化している。導入形態としてはオンプレミス、パブリッククラウド(IaaS)、IBM Bluemix(PaaS)が選べる。開発者向けのエディションであるEssentials版については、無償で提供している。IBM API Connectの機能をより詳しく見ていこう。

作成:手早く簡単にAPIを作成

 モデル・ドリブンのプロパティ・マッピングのアプローチにより、既存のデータソースからGUIやコマンドで容易にAPIを作成できる。APIそのものだけではなく、API仕様の記述・共有方式としてLinux Foundationで標準化が進んでいるSwaggerに基づいたAPI仕様ドキュメントも作成できる。また、作成したAPIは容易にテストすることも可能だ。

保護:APIを保護かつ制御

 ハードウェアによる暗号鍵管理や、OAuth2.0をはじめとしたセキュリティ標準への対応など、エンタープライズで使用することを想定したセキュリティを実現する。またアプリケーション単位の流量制御やコンテンツによる処理の振り分けなどのによってバックエンドシステムへの負荷を制御する。

実行:高性能でスケーラブルな実行環境

 Node.jsやJavaマイクロサービス(軽量エンジン)の実行環境であり、既存IT資産のAPI化を可能とする。また、エンタープライズレベルの高可用性と拡張性を持つ。

管理:APIのライフサイクル運用管理

 利用可能なAPIを検索するなど、デベロッパー向けポータルを提供できる。APIのアクセス権やポリシー定義、バージョン管理、利用状況やサービスレベルを分析するための統計情報を収集できる。

出所:日本アイ・ビー・エム[クリックすると図が拡大します]

 アーキテクチャとして見ると、クライアントやアプリ側との接点でセキュリティを制御する「API Gateway」、APIの実行環境である「API Service」(StrongLoopに由来する部分)、アプリ開発者がAPIを検索するための「API Portal」という構成で成り立っている。また、APIの開発ツール「API Designer」が提供され、開発者のPC上で稼動する。

出所:日本アイ・ビー・エム[クリックすると図が拡大します]

 IBM API Connectは企業内のAPIを包括的に管理し、API基盤とできるのが最大の特徴だ。「素早く開発できる」、「ポリシーを管理する」など特定の機能ではなく、ライフサイクルにおける全ての段階をカバーするようにできている。大量のAPIから目的に合致したものを発見する、利用状況を把握するなど、APIの提供側と利用側、双方のニーズをカバーするようにできている。  

 全体的に管理できれば効率が高まるだけではなく、俯瞰できるのでAPI品質の均質化にも寄与すると期待できる。実在するAPIを考えてみると、用途、接続先、仕様、セキュリティレベルなどバラバラと言っていいだろう。  

 IBM API Connectを用いると既存のAPI群やデータソースを組み合わせ、新しいAPIを作ることが可能だ。新規に作成することがないので素早くできるだけではなく、既存資産を活かすことにもつながる。今では大量のAPIがあるので、使いやすいものを再利用すればいいのだ。  

 ただしありすぎて「どこに何があるのか分からない」場合もある。それも考慮済みだ。IBM API Connectでは開発者にAPIが検索できるポータルを提供することもできる。広範に配慮ができたAPIのプラットフォームが整うことにより、APIはより効率良く開発ができて、より進化していくことが期待できる。

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APIが企業のコアシステムと接続する今、IBMは強みを発揮する

 ところでIBMならではの強さはどのようなところにあるのだろうか。日本IBM クラウド・ソフトウェア事業部 石井陽介氏に話を聞くと、実績の長さと買収で得た新しさを挙げた。石井氏は次のように説明する。  

 「IBMはAPIに関してWebサービス黎明期から取り組んでおり、HTTP連携の要素技術から可用性・セキュリティに至るまで、幅広い要件や実装を熟知しています。これらのノウハウが蓄積された専用アプライアンス(IBM DataPower Gateway)は20年以上に渡って世界中で多くのお客様のWebサービスの安定稼働に貢献してきた実績があり、『API Gateway』でもこの技術が大いに活用されています」  

 ほかにもIBMの企業システムに関する長い実績は、APIが企業のコアシステムとつながるようになった今、強みを発揮できるという。「IBMには長年に渡って、特に日本の企業の基幹ITシステムを支えてきた中で蓄積された、豊富なテクノロジーや知見があります。これらはスタートアップのツールベンダーには無いものです。Connectシリーズでは基幹システムで使われるz/OS(汎用機)やWebSphere Application Server、DB2、BPM製品など幅広くサポートしており、既存システム上のサービスを簡単に API化できることも強みとなるでしょう」と石井氏。  

 また、新技術への適合性も強みだという。IBM API Connectには昨年買収で得たStrongLoopの技術も盛り込まれており、Node.jsベースのAPIを容易に作成できる。こちらは新しいトレンドを捉えた技術である。石井氏は「IBMのいいところは、技術にオープンで、妙なこだわりがないところです。良いものは積極的に採り入れていきます」と笑う。つまりいい意味で無節操であるということだ。技術を見極める先見性もある。  

 APIやConnectシリーズであらゆるシステムをつなげていくことは、IBMが最重要キーワードに掲げている「コグニティブ・コンピューティング」にもつながる。単語の意味は「認知的」だが、ここには多様なデータから何らかの答えを導き出す高度なコンピューティングの世界が構想されている。データを収集し分析するためには、技術的にはシステムが接続可能でなくてはならない。それがIBMのConnectシリーズであり、そのうちの一つがIBM API Connectということだ。こうしたコグニティブビジネスやAPIエコノミーが拡大していくなか、IBM API Connectがもたらす価値は高まるばかりだ。

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