多くの企業がITコスト削減を優先課題として掲げる中、その現実解としてクラウドコンピューティングへの期待が高まっている。5月27日に開催された「IT Initiative Day 2009/クラウドコンピューティング」のパネルディスカッションでは、クラウド市場における重要プレーヤー5社の代表がパネラーとして登壇。クラウドコンピューティングの可能性や現段階での課題、企業ITに与えるインパクトについて、議論が交わされた。なお、モデレーターは本誌でもおなじみのテックバイザージェイピー代表栗原 潔氏が務めた。
- 栗原 潔 氏(モデレータ)
株式会社テックバイザージェイピー 代表
- 平野 和順 氏
マイクロソフト株式会社
デベロッパープラットフォーム統括本部部長
- 米持 幸寿 氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
ソフトウェアコンサルティング・テクノロジー・エバンジェリスト
- 保科 実 氏
株式会社セールスフォース・ドットコム
常務執行役員SE&サービス統括本部長
- 中田 寿穂 氏
サイオステクノロジー株式会社
国内事業ユニット クラウドインテグレーション部長 博士(理学)
- 眞木 正喜 氏
株式会社日立システムアンドサービス 執行役専務
クラウド導入で本当にコスト削減できるのか?
栗原(以下、敬称略)
まず最初に、ユーザー企業にとって「クラウドを使うと何がいいのか?」という根本的な質問があります。この答えがないと、話を先に進めようがありません(笑)。たとえば、「クラウドはITコスト削減に有効」という認識が定着していると思いますが、果たして本当にそうなのか、他にメリットはないのか等、ご意見を伺いたいと思います。
平野
ケースバイケースという答え方になってしまいますが、やはり、何をクラウド化するかということがポイントでしょう。自社で運用しているシステムの中で、「すでにコモディティ化しており、そこで競争する必要のない機能」であれば、クラウドのサービスを利用するのは有効です。
たとえば、会社に電子メールはないと困りますが、電子メールの機能そのものは、いまや他社との差別化要因にはなりません。そのようなコモディティ化している機能は自社で所有せずに、外部のクラウドを活用することで、コストを削減することができると思います。
保科
我々は、クラウドコンピューティングの真価はスケールメリットにあると捉えています。自社で独自にサーバを立てるよりも、データセンターのサーバを共有したほうが、明らかにコストは安くなる。ソフトウェアまで含め、単一の仕掛けで動いているサーバをマルチテナント型で共有すれば、圧倒的に低コストで済みます。したがって、コスト削減はクラウドが提供する重要な価値の1つだと考えます。
同時に、リスクを取らずに始められること、つまり、高額な初期投資を必要とせずに簡単にスタートでき、不要になったときはすぐに利用をやめるという選択ができることも、クラウドの大きなメリットです。
なお、クラウドでは開発のスピードも上がるという意見もありますが、それはクラウドとは別の問題です。クラウド上で提供されるソフトウェアそのもの、サービス自体の開発生産性の問題であり、クラウドであるかどうかは本質的には関係ないと思っています。