企業以上に「個人」の考え方が変化
──まずは連載開始にあたり、自己紹介をお願いできますか。現職はもちろん、これまでのご経歴や、人材開発に携わるようになられた経緯などについても伺えればと思います。
現在は、パーソルプロセス&テクノロジー株式会社のワークスイッチ事業部で業務コンサルティングに従事し、その一環としてDX人材開発という新領域の事業を立ち上げつつあるところです。
新卒でIT業界に入った後、2006年よりパーソルグループでエンジニア派遣の営業およびスタッフマネジメントに従事。2012年に業務コンサルタントになり、エネルギー領域の新規事業の立ち上げなど、比較的新しい事業の立ち上げに関わってきました。
新社会人になった頃は、「2000年問題」でIT業界が揺れにゆれていたことを憶えていますね。以降、リーマンショックや東日本大震災などを経て今に至るまで「働き方」から業界をみてきたのですが、その間にプライベートでは子どもが生まれたこともあり、IT業界の「働き方」に対して強い危機感を抱くようになりました。その後、2012年頃から業務コンサルタントとして新事業立ち上げに関わるようになり、その過程でクラウドやモバイルデバイスなどの新しいテクノロジーに触れ、それらの活用によって事業や業務はもちろん、働き方も良い方向に変えられるのではないかという期待感を持つようになったのです。その思いもあって、2015年頃に「ワークスタイル変革コンサルティングサービス」を立ち上げ、公共事業や複数企業の働き方改革などに携わっています。
当時から、リモートワークの可能性は少しずつ語られていましたが、技術的にはともかく、制度やマインド面での整備が必要だと思っていました。そこで、まずは自社からと考え、コンサルティングを通じて得た知見やノウハウを社内や社外に還元するためのコミュニティづくりや、働き方の情報メディア『Work Switch』(2020年12月サービス終了)の編集長業務などにも取り組んでいました。
特に、2020年はコロナ禍の影響もあり、日本でも半ば強制的にリモートワークを導入せざるを得ない状況になり、一気にご相談をいただくようになっています。そのため、総務省テレワークマネージャーにお声がけいただいたのを機に、会社の業務として支援できていない地域の中小企業の支援を副業として、テレワーク導入課題を持つ企業に向けてコンサルティングを行うようになりました。
──本業と副業、それぞれ異なる業種業態の企業に対してコンサルティングを行う中で、状況や課題感などに差異を感じていますか。
大手企業は分業が明らかで統制もとれているため、業務フローや命令系統も整理しやすいです。分業していることもあり、システムと密に連携するニーズも高いでしょう。一方で中小企業の場合、一人で複数分野の仕事を抱えており、しかも明確に線引きできていないことが多いため、システムで効率化するメリットが小さい傾向にあります。
実際、リモートワークについても大手企業より中小企業のほうが導入されていない割合が高いと言われています。もちろん、業種・業態の性質からリモートワークが難しい、必要がないという企業も多いため、単純に比較はできないと思います。たとえば、私が支援している企業においては、規模の大小や業種業態に関わらず大手企業と変わらぬ危機感や課題感を持ち、働き方のデジタル化に対する興味関心も高いです。そもそも関心のない企業は、課題感すら持ち合わせていない状況にあるので、中小企業は二極化しているように感じます。
また、リモートワークも含め「働き方のDX推進」という観点で見ると、組織規模に関わらず先進的な企業は興味関心が高く、課題も似ています。その筆頭に挙げられるのが、DX人材も含めた「デジタル人材の不足」です。ただ、大手企業よりも中小企業の方が人材確保の難しさ、人が抜ける打撃の大きさは容易に想像できるでしょう。中小企業にとって「優秀な人に来てもらえるか」「人数を確保できるか」は、大企業よりも深刻な問題だと思います。
企業以上に変化しているのが「個人」です。ライフスタイルや仕事への価値観の多様化が進む中で、コロナ禍も追い風となり、会社選びの選定基準は大きく変化しています。その中の一つとして、リモートワークを含めた“働き方の自由度”を重視する人が増えているのは間違いありません。大手企業ならば副業制度など手順を追ってルールを整えていく動きが強い中で、中小企業ではやめてほしくない人が「そういう働き方にしたい」と言われてから、後付けでルール化していくところが多いようです。