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「酒屋からデジタル変革を」数万×200の配送ルートから最適解を導き出すカクヤスDXリーダーたちの挑戦

「買いに行く」から「運んでもらう」へのパラダイムシフトを

“酒屋”がIT専門人材を外部からどう集めたのか?

 同社のデジタルイノベーションセンターは、DX企画の立案から実行までを一貫して行う。データ分析を担当する「データ分析推進グループ」には7名、DXプロジェクトを推進する「DX推進グループ」には4名、それらを管理するリーダーが1人在籍し、飯沼氏が全体を統括する。データ分析チームには、東京大学大学院で応用数学を専攻していた専門家を含む外部採用のメンバーが多く所属しており、独自のデータ分析基盤を構築している。この基盤は、外部の知見と社内の経験を融合することで、データの抽出や分析を通じて意思決定を支援するものだ。

 一方、DX推進グループでは、Amazonでプロジェクトマネジメントを経験したリーダーのもと、現場経験を持つ社内メンバーが中心となって進められている。各部門の業務改善は、その分野に精通した社員が担当しており、現場の専門性を生かしてプロジェクトを展開。こうした取り組みを通じて、社内の専門知識と外部のプロジェクト推進能力を効果的に融合する体制を構築している。

 現在は、物流、店舗、営業といった各領域の課題を正確に把握し、優先順位をつけてプロジェクト化を行っていると飯沼氏。現場で長年の経験を持つ社員が社内の課題を分析し、重要性や影響度を評価した上で、実行可能性とインパクトを考慮して進める。実行段階では現場との協力が不可欠なため、現場に受け入れられる形で解決策を実装することを意識しているという。

 飯沼氏は「現場で使われないものでは意味がないので、導入しやすく効果が出やすい解決策を作ることが重要だと思います。デジタル技術は、あくまで多くのお客さまにカクヤスの価値を届けるための手段です。解決すべき課題があり、その解決に適した方法としてデジタル技術を選ぶようにしています」と語る。

 ITの専門人材の採用が難しい昨今、IT企業ではないカクヤスがどのように専門人材を集めたのか。飯沼氏は、「自身のネットワークを最大限に活用しました。データ分析が好きで、大きな課題に挑戦する面白さや社会的な意義に共感してもらえる人達を採用しています」と語る。カクヤスの配送は非常に複雑だ。それに加え、各機材のキャパシティやシフトの状況、アルバイト社員や店長などの役割分担を考慮する必要がある。また、ルート設定では、配達順やエリアを考えれば考えるほど、最適解を見つけるのは難しい。だからこそ、その解を追求するための経験と意欲が求められる。

 「この複雑さは、データ分析に取り組む人にとってはむしろやりがいのある課題です。社会問題にも通じる配送力の向上という大きな課題に、自分のスキルや経験で貢献できるという“わくわく”が専門家の好奇心を刺激するのではないでしょうか」(飯沼氏)

数万×200の配送ルートから最適解を見つけ出すには

 同社を取り巻く深刻な課題の一つが物流の「2030年問題」ともいわれるドライバー不足だ。配送業を営む同社はこの問題をどう捉え、どのように対応しようとしているのか。

 一般的なECでは、商品のある1つの倉庫から決まったエリアに向けてルート配送を行う形が主流だ。一度に複数の配送先を回り、戻ってきたらまた荷物を積んで出発するといったように、倉庫と需要が「1対N」の構造になっている。一方、同社の場合は関東エリアだけで1日に数万件もの注文が発生し、それらが約200の配送拠点に割り振られる。そのため、どの配送拠点にどのくらい在庫があり、どの倉庫が空いているか、こうした情報を踏まえてドライバーの現在のルートにどの注文を組み込むのか、最も効率的な配送ルートを判断する必要がある。配送方法も軽バンを使う場合もあれば自転車で配送する場合もある。このように「N対N」の形で倉庫と需要が複雑に絡み合うため、非常に難しい管理が求められる。その上、この難しい“パズル”のような作業を現場社員の長年の経験や知識に頼る部分が大きいことから、会社のナレッジとして溜まっていない現状もある。

 「この複雑なパズルを高精度で素早く解くためには、データ分析やデジタル技術の活用が欠かせません。配送拠点のキャパシティそのものを増やす必要もありますが、同時にそれを最大限効率的に活用する方法を見つけることが大きな課題です」(飯沼氏)

 このような課題を踏まえ、飯沼氏は配送の効率化を実現するための要素として『自動化』『非属人化』『可視化』の3つを挙げる。まずは、注文が入るたびに誰がどのルートで対応するかを自動化する仕組みを整えることで、効率的な運用が可能になる。次に、経験や個人の判断に依存せず、意思決定をシステム化することで安定した運用を実現する。そして、配送状況をリアルタイムで可視化して把握できる仕組みを構築することで、効果的な管理が可能になる。

 この3要素を実現するための第一歩として、デジタルイノベーションセンターでは配送ロジックの仕組みを構築中だという。これは、注文が入った際にどの拠点から誰が何番目に運ぶのかといった最適な配送ロジックを自動的に算出する仕組みだ。これが完成すれば、配達ツールに組み込むことで、各拠点における最適で効率的な配送が可能となる。現状、同社の配送方法では配送を行うエリアが固定されているため、たとえ配送拠点から近い距離に顧客がいたとしても、担当エリアに存在しなければその顧客に運べないといったケースが発生する。在庫がある店舗から最適なルートで運べるようになれば、少ない人数でより早く顧客に商品を届けることが可能だ。飯沼氏は「机上の検証では同じキャパシティで配送力を30%向上させる可能性が見えたところです」と期待を寄せる。

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顧客ニーズを徹底調査、アプリ改修でコンバージョン率も大幅改善

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この記事の著者

森 英信(モリ ヒデノブ)

就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

竹村 美沙希(編集部)(タケムラ ミサキ)

株式会社翔泳社 EnterpriseZine編集部

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