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日米の安全保障の基盤そのものが揺らぐ恐れも‐‐森本敏氏が提言する、日本の危機管理の課題と普天間問題

過去の教訓を共有し、危機管理体制を構築せよ


危機管理の根っ子は生存本能

― 確かに日本の企業では、自分が痛い目にあってはじめて対処、改善をするという場当たり的な対応が多いように感じます。リスクを未然に防ぐために必要なトレーニングなどありますか。

 

拓殖大学海外事情研究所長 森本敏氏
拓殖大学海外事情研究所長 森本敏氏

 私は国の安全保障と危機管理の仕事をしていますから、アメリカの議会だとかアメリカの議会調査局のレポートを毎週読んでいます。例えば、アメリカで災害が起きる、ハイチで地震が起きるとアメリカはどういう助け方をしたのかということが議会のなかの証言で出てくる。

 それを丁寧に調べて、日本にこれを持ち運んだ場合に、どういうことを日本はやらなければならないか、どこが法律でまだ整備されていないかということを国会議員に説明して、国会で質問してもらう。そういう仕事なのです。

 企業でも同じことで、危機管理を考えるセクションを常に会社のなかに置いて、世界中の会社の実例を丹念に調べながら、社長に対して常にアドバイスをしていき、場合によっては、抜き打ちで組織の管理状況を調べる、ということが重要ではないでしょうか。

 危機管理を特殊な学問だと思っていると誤りです。危機管理とは組織管理論であり、その根っ子は生存本能です。つまり原始時代に裸で槍を持っていた時代と何ら変わりません。いかにマンモスから身を守るかということですから、いかにして組織を作り、ただちに洞穴に逃げ込めるように常に見張りを外に出して、自分や家族の身を守るかということですよね。

 こういう生存本能的なところから始まり、後に中世になって学問的に概念が整理されたものですから。危機管理という言葉自体は、1960 年のキューバ危機の時に生まれたものなので、実はとても新しいものです。

普天間基地移設問題と脅威認識のズレ

― 国家の危機管理を考えていく際にも、国家間の安全保障において、まず脅威を認識し、その脅威に備える必要があります。現在、普天間基地の移設問題が、日米間の大きな懸案事項となっています。森本先生は、前政権では防衛大臣補佐官として安全保障問題にも取り組んでおられましたが、いかがお考えでしょうか。

 現在の民主党政権では、基本的な東アジアにおける脅威認識が薄いと私は考えています。なぜなら、現政権が非常に反米リベラル的な考え方で、中国という国が日本国家にとって、現在においても将来においても、脅威だとは考えていないからです。

 ですから、鳩山政権に変わってから、脅威という言葉を中国に対して使わず、中国が空母を持つと言っても、そのことに対して懸念を表明したことが一切ない。しかし、中国の脅威を抑止できるのは、日本だけではできません。これまで、日米安全保障体制に基づくアメリカの抑止と日本の対応できる防衛力を組み合わせて抑止してきたわけです。

 ところが、現政権には対中脅威感がないわけですから、アメリカの抑止というものに対してアンダーエスティメイト(過小評価)しているのですね。アンダーエスティメイトしているから、普天間の基地は、海外、難しければ県外でいいと言っているわけです。仮に米軍基地を海外や県外に移設してしまったら、日本には即座に抑止できる能力というのはないので、力の空白ができてしまいます。その分だけ日本が防衛力を増やして、自国で補填するというならまだしも、それもしない。

 日本の防衛費は8年連続で減っています、一方、中国の軍事費は年々増加しています。ですから、抑止の力を落としておいて、日本の防衛力を減らしたままでしたら、危うくなるばかりです。しかし、今の現政権はそうではない。中国は脅威とみるべきではないという議論になっているわけです。脅威認識がズレているのです。

 いま何が危機かというと、東アジアにおける我が国が置かれている将来展望について、一番深刻な中国、あるいは北朝鮮に対して脅威感がない点です。したがって、日米同盟に基づくアメリカの抑止力について軽視とは言わないけれど、従来のように重視しておらず、前政権からの政策の一貫性もない。このままでは日米の安全保障の基盤そのものが揺らぐ恐れもあります。

 重視していないから海兵隊の普天間の基地は、外に出していいと言い出す。つまりそういうことを平気でやる政権ですから、日本は何を考えているんだろうかとアメリカは不信感を募らせているのです。つまり、脅威感や危機に備える意識が乏しいのでしょうね。

 

森本 敏(もりもと・さとし)

拓殖大学海外事情研究所長。1941年生まれ。防衛庁入省後、1977年外務省アメリカ局安全保障課に出向。79年外務省に入省。在米日本国大使館一等書記官、情報調査局安全保障政策室長などを歴任。92年より野村総研主席研究員(2001年3月退職)、95年より慶應大学・同大学院にて非常勤講師を兼任。97年より中央大学 ・同大学院にて客員教授(2002年退任)、99年より政策研究大学院大学(2003年退任)、聖心女子大学非常勤講師を兼任。2000年より拓殖大学国際開発学部教授。2005年より同大学海外事情研究所所長及び、同大学大学院教授を兼任(現職)。2009年8月に初代防衛大臣補佐官就任(2009年9月退官)。2009年より東洋大学客員教授。主な著書に『日本防衛再考論』(海竜社)、『米軍再編と在日米軍』(文藝春秋社)、『有事法制』(共著:PHP研究所)、『安全保障論』(PHP研究所) などがある。

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渡黒 亮(編集部)(ワタグロ リョウ)

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