「基礎」の重要性
2010年のノーベル化学賞を、二人の日本人が受賞しました。いろいろなところで報道されていますから、すでに皆さんはよくご存じのことと思います。この日本の誇る博士は、お二人とも、同じようなことを話されております。「基礎が大切だ」「若いころに、基礎をしっかりと身に付けた結果が、ノーベル賞につながった」と。日本の頭脳どころか、世界の頭脳になったお二人が、「基礎」の重要性を強調されています。
私自身の学生時代を振り返ってみますと、先生から毎日のようにいわれていたものの、右から左に聞き流していた言葉ですが、ノーベル賞学者のお二人にいわれると、あらためて、ドッシリとその重さを感ずるとともに、遠い過去に置いてきてしまった「基礎」を、何とかして取り戻したい気持に駆られます。全く無理な話ですが。
しかし、この私が、今、恥かしげもなく、「基礎」の大切さを説いて歩いているのですから、世の中不思議なものです。もちろん、アカデミック方面の基礎ではありません。40年以上お世話になった実業界での経験に基づいた基礎、プロジェクトマネジメントの基礎知識です。思い返すまでもなく、随分と多くのプロジェクトを失敗してきました。全てIT関連のプロジェクトでした。お手本になるプロジェクトが世の中にほとんどなく、また、ガイドラインのようなものも存在しなかったことが、その理由としてあげられると思います。
あるIT関係の雑誌によりますと、日本国内でのプロジェクトの成功率は、10年ほど前で、約26%、2年前で、約31%だそうです。成功率の向上は、遅々としていますが、それでも最近8年ほどで5%アップしたことになります。プロジェクトマネジメントの重要性が叫ばれ、そして、その基礎知識を系統的にまとめたPMBOKガイドが注目され始めたのが、2000年近辺からですので、ひょっとすると、この5%の向上は、PMBOKガイドによるところが大きいのかもしれません。
私達がプロジェクトに携わっていたころ、先輩達がよくいっていました。「プロジェクトは、KKDだ」と。「経験」と「勘」と「度胸」、これがプロジェクト成功のカギだ、というわけです。これが間違いだとは思いませんが、私は、ここにもうひとつの「K」を加える必要があると思っています。
追加する「K」は、「基礎」のKです。「勘」も「度胸」も、経験と基礎(知識)によって支えられているものだと思います。「基礎」は、往々にして、「経験」より軽んじられる傾向があるようですが、お二人のノーベル賞学者のいわれるように、もっと「基礎」に目を向けるべきだと思います。
プロジェクトを取り巻く環境には、幸にして、いまやグローバル・スタンダードといわれる基礎知識体系:PMBOKガイドが整っています。この基礎知識体系を理解できないと、プロジェクトマネジャの国際資格であるPMP(Project Management Professional)は取得が難しいともいわれています。すでに、プロジェクトに携わって豊富な経験をお持ちの方は、もう一度、基礎を振り返ってみる気持ちで、そして、これからプロジェクトの世界に入って行かれる方は、基礎を自分のものにするために、PMBOKガイドに取り組んでみてはいかがでしょうか。(次ページへ続く)