「ネットゼロ」はIT部門に影響を与える
豪雨、連続する真夏日などによって日本にいる我々も普段から感じるようになった地球規模の課題である気候変動問題の解決に向けて、平均気温の上昇を抑えることは不可欠になっています。その原因とされる温室効果ガスあるいは二酸化炭素(CO2)の人為的な排出量を抑え、吸収源による除去量との間の均衡を、ネットゼロで目指していることは、皆さんご存知でしょう。
また、排出量を考えると、電気自動車で考えると分かりやすいのですが、車体の設計・生産・物流からの(それに必要なエネルギーを含む)排出量、車体を動かすためのエネルギーを作る排出量、車体の廃棄からの(それに必要な物流やエネルギーを含む)排出量など全体を考察する必要があります。利用するための電気だけを見ても意味がないということです。
では、ここでの多くの方が関係するIT部門で、ネットゼロがどのような影響が将来あるかを、今回は予測したいと思います。クラウド基盤にも関係しますので、他人事だとは思わずに読んでください。
まずは、情報開示の義務化です。2021年11月3日、国際会計基準財団(IFRS財団)は、「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)」の設置を公表しました。IFRS財団は、サステナビリティ開示基準について、プロトタイプを公表済み(2021年11月3日)。本年第1四半期に気候変動開示基準の意見募集を実施し、早ければ夏に最終化の予定です。その後、他のサステナビリティの開示基準を検討しています。会計基準の中にサステナビリティに関係する情報開示が盛り込まれます。いわいる非財務情報の開示の1つです。
以下は、日経新聞の2022年3月22日の記事からです。
「米証券取引委員会(SEC)は、賛成多数で新しい開示ルール案を承認した。今後、外部から意見を募った後に最終規則をまとめる。大企業の場合、2023年度の排出量を24年にも開示する必要がある」
「SECの新しい開示ルールでは、1)気候変動リスクが経営に与える影響、2)企業のリスク管理体制、3)自社事業とサプライチェーン(供給網)における温暖化ガス排出量、4)気候変動に関連する目標や移行計画──などの公表を企業に義務付ける」
日本においては、同じく日経新聞2021年10月21日の記事では、以下のようにあります。
「金融庁は上場企業など約4000社を対象に、気候変動に伴う業績などへの影響を開示するよう義務付けることを検討する。開示を求める内容としては、温暖化ガス排出量や気温上昇に伴う損失影響の試算などが浮上している。まず東京証券取引所が2022年4月に予定する市場再編で最上位市場に上場する企業に開示を義務付けるほか、さらに対象を広げて、23年以降に有価証券報告書を提出する企業全体に開示を盛り込むよう求める」
サステナビリティを含む非財務情報の開示ということで、ERPにおいて、従来の財務情報と同じように、廃排出量やエネルギー使用量を扱う必要がでてきます。「扱う」というのは、非財務情報の主要項目の目標値と、それに対する実績値です。これは、ESG経営の実践で著名なシスメックス社の開示情報です。環境データ、環境パフォーマンスデータが開示されているのです。さすがだと言えます。
扱う情報の粒度も細かくなります。財務会計でお金を扱う時は、ざっくりとした数字の扱いはしないのと同様に、サステナビリティの開示にも、生産、物流、廃棄における実際の排出量の測定値、予測値や納品部品や材料における排出量などの、生データの管理が必要になります。
ERPは非財務情報への対応が必須となる
おそらくERPベンダーは、サステナビリティを含む非財務情報の管理のための機能アップを実施してくると思います。というか、ERPベンダーはその機能がないと将来はないということです。IFRSなどで義務化されるからです。こうなると、企業では古いERPの置き換えが進むと考えられます。その時に、現状の深刻なIT技術者不足を考えると、この移行のためのさらなるリソース不足の問題が生じる可能性が大です。これは予測というより、かなりの精度で現実化するシナリオです。ただ、現在では、GRIスタンダード、国際統合報告評議会(IIRC)などの非財務情報の開示フレームワークが乱立しており、IFRS財団などによる統一が待たれている状態です。
ERPで管理するその元のサステナビリティのデータは、上記SECの新しいルールで、「自社事業とサプライチェーン(供給網)における温暖化ガス排出量」の開示が義務づけられているように、自社事業を含むサプライチェーン全体になります。
最終製品を生産していない場合も、納品先への報告の義務が生じます。環境省の「温室効果ガス排出・吸収量等の算定と報告」(2021年)をみると「産業部門からの排出量のうち、9割以上を製造業からの排出量が占めている」とのことです。この製造業に関わるメーカーや食品・飲料メーカーにおいては、自社の製品やサービスに関わる生産、物流、消費、廃棄だけではなく、サプライヤーからの原材料や部品の生産、物流、消費、廃棄、そして消費者向けの場合は店舗オペレーションに関係するデータが必要になるということです。