米国企業と日本企業との違いはプランBを用意できているかどうか
押久保:福田さんは外資系の企業から、今は日本企業に対してクラウドを含めたサービス導入支援も行う会社を経営されているわけですが、例えばアメリカと日本の企業で異なる点を感じることはありますか?
福田氏:まさに、昨今のテレワークでも違いはありますね。アメリカではロックダウンが始まった時に何が起きたかというと、企業はテレワークへとスムーズに移行したんです。元々、普段からテレワークするということに慣れていました。
一方、日本の企業の多くはそもそもテレワークに移る段階で混乱が起きました。これについては、やはりプランBを用意していないことが最大の違いになるかと思います。何かが起こった時に、切り替えできるプランを事前に用意しておき、誰かがリスクを承知でそれを決断し、実行するという意志が足りない部分があるのかなと感じます。
押久保:どうしたら、そこは変えられるのでしょうか? 日本のDXが遅れているといわれるのも、ここに原因の一つがあるようにも思えます。
福田氏:極端な話になってしまいますが、外部人材の登用を検討することでしょうか。企業文化という見えないカルチャーを変えていくのは、外部人材の力が不可欠です。
その点で、私が注目しているのはSAPジャパンの社長から富士通のCIO(最高情報責任者)兼CDXO(最高デジタルトランスフォーメーション責任者)補佐になった福田譲氏や、ヤフーの社長・会長から東京都副知事になった宮坂学氏などですね。企業経営もDXもそうですが、過去の前例を振り返るのではなく、まっさらな状態で考えられる人材でないと、大きく変えることは難しいと思います。
押久保:それを聞いてしまうと、うちの会社はだめだと思ってしまう人もいるかもしれません……。他に変えていく方法論はないのでしょうか。
福田氏:冒頭で民主化の話をしましたがある会社がサービスやツールなどを「うちでは使いませんよ」と言っていても、便利だからとユーザー数がどんどん増加し、使っている人が多数派になると「うち」も変わらざるを得なくなりますよね。社内SNSやチャットがその典型ではないでしょうか。
使っている人が増えると、やがてそれが標準になります。会社の前に会社の中にいる人たちが変わっていき、その母数が増えることで自然と変わることもあるわけです。その際、シャドーIT的な課題やコーポレートガバナンスの課題はもちろんありますが、それに対するサービスやツールもまた存在します。
押久保:ボトムアップからDX推進も可能というわけですね。トップ層や社員一人ひとりの考え方のほかに、組織の面ではどうでしょうか?
福田氏:アメリカでは一般的だと思うのですが、独立したIT部門ではなく各事業に紐付くIT担当者がいるべきだと思います。営業部付きのIT担当、マーケティング付きのIT担当、カスタマーサクセス付きのIT担当といった具合に。大きい会社になればなるほど事業部ごとに異なることも多いので、部門付きの人事やファイナンスのように理解あるIT担当者が必要です。
押久保:確かにそれだとスムーズになるように思えますが、一方でサイロ化になりうるという懸念はありませんか?
福田氏:まさにその部分を解消すべきものが、CIOやCDOではないでしょうか。私は『THE MODEL』でCRO(チーフレベニューオフィサー)という役割を提唱しましたが、各部署が部分最適をした上で、全体のバランスを見るべき人がいる。そして彼らをまとめるのがCEOという組織体系が求められています。部分最適の課題については、IT投資の分析・最適化を一元管理するSaaSのサービスなどが既にありますね。
押久保:ありがとうございます。最後にこの世界的な社会不安の中で、福田さんが目指していることがあればお教えください。
福田氏:今後は、これまで以上に経営者やリーダー層の意志決定が重要とされる時代になると考えますが、この分野の教育は不足していると認識しています。それを変えていきたい。ツールだけではなく、人への投資も企業経営やDXにおいて重要な要素です。私どもジャパン・クラウドが単に海外のサービスを日本に持ち込むだけではなく、人材の登用や育成などを提供する組織「ジャパン・クラウド・コンサルティング」を持っているのもそれが理由です。
私自身も、社長としての経験がない中で周囲のサポートを受けながら社長に就きました。同じような状況の人を見つけ出し、サポートをしていくことで企業の継続的な成長を支援できたらと考えています。
押久保:本日はありがとうございました。